別荘地 1

別荘を建てようと思っている。建築時期は3年後。

実は、土地ははるか40 年程前、30代前半に手に入れていた。購入までのいきさつは忘れてしまったが、兄と折半で購入した鳴沢村の土地はずっと塩漬け状態であった。その間、なんの展望もなく、管理費と税金は払い続けて今に至る。数回はその場所の前まで行ったが、道路からサッと見るだけ。

数年前に、このままの中途半端は将来に問題を先送りするだけなのが気になり始め、その後どうするかも決めないまま兄から土地の半分を然るべき金額で引き取った。もちろん、購入金額の数分の1で。バブルの頃には、土地を売ってくれと言う電話がドンドン来たけれど、当時はそんな金額で売るなんてとんでもない、などと考えて売らなかった。過去を振り返ると、あの時売っていれば、と言う思いはある。

道路から眺める土地は、太い幹の松(その後、赤松である事が分かった)や、何やら枝が曲がりくねった名前の分からない木で覆われている。土地の形状は、道路からすぐにボコッと大きくえぐれ、そこから急激に立ち上がり奥まで上り坂となっており、とても家が立つ様には見えない。脚の長い高床式だと建てられそうで、実際別荘地内にはその様な家もあるが、阪神淡路大震災以降に建築基準法が改定されて、今では地面を平にしてからでないと建築は許可にならないとか。正直に言って、どうにもならないお荷物。

それから数年経った2020年の今年、コロナウイルスの影響で全国的な外出自粛となり、人の往来が途絶え始めた4月。なぜか、あの土地をもっとよく知ろう、と思い立った。家にずっとこもっているのは嫌だし、かと言ってそれまでの様に都心の美術館巡はできないし、月1で参加していた投信会社の勉強会もなくなった。あの土地まで行けば、一人で黙々と土地の整理をしていられるし、途中は一人で車の中だし好都合だ。それに、きれいにすれば買い手がつくかも知れない。

本当のところ、全くのお荷物なのだが少し違った考えの自分がどこかに居る。それも行こうと思った理由かも知れない。

兄から譲り受けた(引き取ってあげた?)後、何もしないよりもとりあえず売りに出して見ようと思い、以前その別荘地の管理会社であった不動産屋に売買の仲介を依頼する事にした。その時、経験豊富そうな不動産屋の社員に、どんな場所が好みなのか、近隣の別荘地を見てみたらとアドバイスを受ける。富士山のふもとのあの辺には沢山の別荘地がある。富士山の西側にあるドクタービッレジから時計回りに、西湖、河口湖、山中湖辺りまで無数である。

あちこちみて回った私の印象だと、景色が良いと言われて人気の高いところは、ほとんど断崖絶壁に家が張り付いて建つ。当然そこまでの道路はきつい上り坂になる。それに長い年月の間に樹木が成長して視界を遮り、自慢の景観が崩れている所が多い。一方、眺望は望めないが静かな環境が売りの別荘地がある。でも、大通りから車でかなり走る奥まった場所で、断崖絶壁までいかないがそれなりに起伏が有り、歩くと重力の抵抗をかなり感じる。

それでは、鳴沢村にある私の別荘地はどうか。
道の駅や温泉のある大通りから脇道に入って直線道路がずっと伸びており、表通りの雰囲気は引きずっておらず静か。起伏はそれほど大きくは無いので、歩き回っても重力の抵抗感はあまり感じない。従って、足腰が弱くなっても大丈夫そうである。一方では眺望は望めないし、樹木は赤松が多いので、広葉樹林の開けた明るくマッタリの感は無い。そして一番の特徴は、溶岩地である。溶岩は冬は冷えるらしい。今回、鳴沢村役場に凍結深度を確認したところ、計算上は70cmだが、あなたの別荘地の辺りは80cm位をみた方が良いとの事。聞いた所では、ひと冬に何度も水道管を破裂させた人もいるらしい。

と、言う場所です。冬の寒さは気になるところ。一方、アクセスはそんなに悪くなく、重力の抵抗をあまり気にしなくて生活できる点、温泉も車で数分の場所は、老人にとってはプラス。そんな訳で、全くダメな場所では無い事と思い始めていた。