Myucroのからだ世界 25

皮膚と呼ばれるからだの表面から、内部にある筋肉の手前までを見てきました。これらの特筆すべき点は、内臓器官や筋肉などと違って、シームレスに全身に行き渡って、からだをカバーしている事です。

表皮細胞は一層ですが、相互に密に結合して新たな細胞を次々と生み出し、更に、からだの内側に回り込んで、口腔、食道、胃、腸を経て肛門まで、そしてまた外皮につながります。いわば、空気に直接触れる部分を覆い尽くしています。

その内側にある真皮と皮下組織は、からだの部位に応じた構成要素の密度や比率、線維の太さ、長さなどの違いはあるにしても、連続体として考える事ができます。コラーゲン線維を例にとると、上下の組織と線維同士が絡まりあっていますし、同種組織内でも密な相互関係を構築しています。更に、細胞や線維の間を満たしている間質は水の様な自由に流動できる液体とまでは言えませんが、プロテオグリカンやGAGを含んだゼリー状の物体であり、変形を受け入れる性質を持っています。この細胞、線維、間質を合わせたものが、私の興味を掻き立てる結合組織(connective tissue)です。

話が飛びますが、筋膜(fascia)と呼ばれるからだの部分が有ります。ただし、筋膜がからだのどの部分を指しているのかは明確では有りません。そのため統一した定義の構築に関して、ごく最近でも様々な論文や方向性の案が発表されている状況です。

ただし、誰もが認める極めて明確な点が有ります。それは、「筋膜は結合組織である」と言う事です。
そんな背景が有るので、「筋膜」あるいは「fascia」と言う単語は、混乱を生じるので極力使用しないで、その代わりに「結合組織」に統一して話を進めたいと思います。

一方、Ida Rolfの施術が「fascia」と言う言葉を広めたと言う事もあるでしょうし、存在をイメージし易く使いやすい言葉なのかも知れません。従って、「筋膜」あるいは「fascia」として記述されている資料は、「結合組織」として記述されている資料に比べてはるかに膨大である様に感じます。

そんなこんなで色々事情は有りますが、これからは筋膜あるいはfasciaに関する資料も参考にします。

早速ですが、気になる数値が有ります。
私たちが施術する際には、からだのある部分に行ったボディワークによってからだの他の、場合によってはかなり離れた部分にも瞬時に変化が現れる事がしばしば起こります。この現象は、結合組織をからだ中に張り巡らされたネットワークと考える事で説明されます。ネットワークのある地点に起こった変化が如何に伝達されるか、と言い換える事ができます。

気になる数値とはその伝達速度で、720mph(mile per hour)。約1,100kph(Kirometer per hour)。
比較対象は神経系の伝達速度ですが、150mph、との事です。

かなりのスピードで、しかも神経系の伝達速度の3倍です。施術における結合組織の役割、有効性に関する一つの参考となる数値でしょう。私がこの数値を目にしたのは、Thomas Myersの著作ですが、この数値及び比較対象の神経系の数値は、ネット上で検索するとあちこちで使用されている事が分かります。

ただし、どの様な条件での数値なのか、などを確認できる論文は確認できていませんので、闇雲にこの数値だけを取り上げる事には疑問が有ります。

参考までに、
Anatomy Trainsより、
The play of tension and compression communicates around the body as a mechanical ‘vibration’ traveling at the speed of sound. This is roughly equivalent to 720mph (1100 kph), which is more than three times faster than the nervous system. (P. 34)

Fascial Release for Structural Balanceより、
Compared with these other networks, the fascial network is at once faster to communicate – 720mph for mechanical information versus 150 mph for the nervous system – but slower to respond than either the neural or vascular. (P.20)

参考資料 :