イワシのゴマ漬け 6

2020年の年末に「イワシのゴマ漬け」を作った。

セグロイワシは年々取れなくなっている様で、当初(いつ頃であったかは忘れてしまったが、10年前位か)キロ100円であった様な記憶がある。今では、キロ400円。その値段でも、他の魚に比べたらとても安いのだけれど。

2019年はイワシが手に入らず、ゴマ漬けは断念した。12月20日、23日、25日と、早朝5時に自宅発で片貝漁港までドライブして7時ごろ到着する。直売所の前を素通りしてまずは港に直行し、漁船が係留されていれば前夜からの漁はなかったと判断する。こんな事を2019年は3回行って、ついに断念した。天候不順でこの時期は船が出航できなかったのだ。

そして、2020年は満を持して12月21日早朝に出発。いつもの様に直行した港の漁協事務所前の掲示板には5つの漁船名が表示されており、港に漁船がいない。この時間になると、現役を引退したらしい人達が何人か日向ぼっこをしているので、タイミングを見計らってイワシの水揚げがあるか確認する。

そうこうする内に、掲示板の漁船名の横に漁獲量がチョークで書き込まれる。またしばらくすると、寄港予定時間も追加表示。漁協の若い衆は、揚がる時はあがるもんだ、などと言っている。多分昨日までは良い水揚げではなかったのではないかな。

これで今日の水揚げは確定した。後の確認は、どの程度の大きさの背黒か。そろそろ巨大なトラックがゾクゾクと到着して港に活気が出てくる。人々も急に集まりだして賑やかだ。トタンを上面に張った手押し車が引き出されて準備が進む。

港の左前方から漁船が現れ岸壁に横付けされると、人々がワラワラと周りを取り囲む。乗組員なのかおばちゃんが漁船の甲板から蓋をずらしている、船倉の中は細かく砕いた氷がギッシリ。大きなモッコをつけた船に備え付けのクレーンがゆっくりと甲板の穴に近づき魚を船倉から引き上げ、岸壁のザルに流し込む。ザルのイワシは手押し車のトタンにぶち撒かれる。すかさず周りの人々がてんでにイワシを摘み上げ、指で腹をつぶして何やら確認している。今日のは良い形らしい。

ここまで確認できたら、後は直売所で売り出しを待つだけなので、車を直売所前に回して購入の順番待ちをする。直売所はまだ開いていないが、二、三人が発泡スチロールの箱、ビニール袋などを持って集まり始める。港に漁船が着いたばかりなのにどうしてみんな水揚げがある事が分かるのか、不思議。

営業時間は10時からだが、いつももっと早くに開く。背黒が上がった時だけかもしれないが。人々はドンドン集まる。列のおじさんに聞くと、天候で漁があったか分かるらしい。でも、大概の人は電話で漁協に確認するとの事である。私の場合はその土地の天候は分からないし、電話で確認では遅すぎるので、早朝に家を出て賭けをするしかない。

9時過ぎには直売所が開いて、氷を準備し桶に水を張り、上皿ハカリが引き出される。電話がジャンジャンなり店の姉様たちが対応。「今日のは形が良いよ」と言う声にも明るさ、喜びが表れている。きっと昨日までは形、水揚げ量ともによくなかったに違いない。待ちの行列はドンドン伸びていく。