ウォーキングの科学 29

– ウォーキングの科学 28からの続き-

○  筋萎縮によるミトコンドリアの機能劣化

まず、生体における動的平衡(dynamic state)を考える必要がある。生体の構成物資は分子レベルで日々更新されているが、成分の総量と構造は一定で保たれる。例えば、筋肉は180日で入れ替わると言われる。従って、筋萎縮あるいは筋線維の減少は、生体が本来備えているこの機能が何らかの理由で邪魔されている事を意味する。

さて、前出(ウォーキングの科学 28)の参考資料では、筋萎縮のリカバリーのキーとして筋サテライト細胞に着目している。一方、本書では加齢に伴う筋力低下がミトコンドリアの機能を劣化させ、その結果排出される活性酸素が様々な老人特有の疾病を引き起こす、と述べる(P.31-32)。よく読むと、筋萎縮のメカニズムやリカバリーを述べているのではない事に気がつく。

なお、(年をとり)筋力が低下すると、なぜミトコンドリアの機能が低下するのか、については言及していないので、そのまま疑問として残っている。

本書の主張(筋力低下→ミトコンドリアの機能低下)とは逆に、ミトコンドリアの機能低下が最終的に筋の崩壊になる、との事は多くの資料で確認できる。ミトコンドリアは、細胞内のエネルギー産生において中心的な役割を担う細胞小器官で、筋肉の活動や発達、維持においても不可欠である。そのため、加齢や疾患に伴い、その機能が低下すると筋肉の急速な萎縮が進行することが知られている。

参考資料 :

○ミトコンドリアの機能改善

インターバル速歩により、筋力、持久力が向上する事で、ミトコンドリアの機能改善、疾病の改善、との事。

インターバル速歩を行った人群、行わなかって人群の実データの分析による変化の違いから考察されており、人間の実データをベースとしている点が強みである。事前ファクトと事後ファクトから、その間の現象が起こった理由、経緯を探る方法は説得力が有る。他方、現在の多くの論文は、ヒト以外(例えば、線虫、ラット等)について特定の因子を変更する事で得られる結果をもとに議論しているので、その点が本書と他の論文とでは大きく違う。

なお、インターバル速歩とミトコンドリアの機能改善の間には、多くの生体因子が介在しているので、特定の因子だけでの検証と説明で十分であるのか、と言う疑問が有る。